| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S27-6 (Presentation in Symposium)
マダニは吸血行動によりウイルスや細菌、原虫などの多様な病原体をヒトや家畜に媒介することから、公衆衛生および家畜衛生の観点から重要な節足動物である。現在、日本では4つのマダニ媒介性ウイルス感染症が確認されており、特に重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスについては、年間100例を超える患者報告が続いている。一方で、これら既知の感染症の背後には、ヒトや動物での病原性が不明な多くのマダニ媒介性ウイルスが存在すると考えられている。これらマダニ媒介性ウイルスの感染リスクを評価するためには、マダニが保有するウイルスの実態把握や基本的性状の解明が不可欠である。近年では、ヒトでの感染や流行が顕在化する前段階において、マダニが保有するウイルスを把握し、その潜在的リスクを評価する、いわゆる「先回り研究」の重要性が高まっている。しかしながら、国内におけるこれら一連の調査研究対象は、一部の地域やマダニ種に限定されることが多く、マダニ媒介性ウイルスの多様性や分布実態に関する知見は未だ十分とは言えない。さらに、獣医学的・医学的な断片的知見に基づく解釈が中心であり、実際にどのマダニや野生動物がどのウイルスの感染サイクル維持に関与しているかといった生態学的知見は極めて限られている。
演者らは、北海道に生息するマダニを中心に、マダニ媒介性ウイルスの探索を継続的に実施してきた。具体的には、次世代シークエンサーを活用した網羅的なウイルス叢解析と、培養細胞を用いたウイルス分離を組み合わせることで、これまで多数の新規ウイルスや国内初分布となるウイルスを分離・同定し、日本におけるマダニ媒介性ウイルスの多様性や分布に関する知見を集積してきた。
本講演では、これまでに得られた知見を基に、日本におけるマダニ媒介性ウイルスの多様性と分布を整理する。また、これらウイルス研究を生態学的側面から俯瞰し、今後の研究展開について議論したい。