| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S28-3 (Presentation in Symposium)
植物とそれを食べる植食性昆虫の相互作用は、約4億年前に始まり、現在でも陸上生態系において最も重要な生物間相互作用の一つである。両者の間には植物の化学的な防御の進化と、それを解毒する植食性昆虫側の解毒機構の進化が拮抗しており、その進化的なせめぎあいが今日見られる両者の非常に高い多様性の創出に貢献してきたと考えられている。本講演では、主にシロチョウ亜科蝶類とその食草であるアブラナ目草本の相互作用に注目し、シロチョウの食草解毒機構の分子・生態的・進化的な側面について、マクロからミクロまでの様々なスケールで最近の研究について紹介する。
シロチョウ亜科蝶類の主な食草となるアブラナ目草本はグルコシノレートと呼ばれる多様性の高い二次代謝産物を化学防御物質として保有し植食性の昆虫から身を守っている。これに対し、シロチョウ亜科蝶類の幼虫は、中腸でこれらを無毒化する酵素を発現することでアブラナ目草本に適応していることが知られていた。近年のゲノム編集を用いた研究によって、発表者はこれらの解毒に関わる酵素には2種類のタイプが存在することを発見した。本講演では、シロチョウがなぜ2タイプの解毒酵素を獲得するに至ったのかという問いを軸に、ゲノム比較によるマクロ進化的視点からその生態的意義と進化動態を論じる。加えて、中腸の細胞レベルにおける遺伝子発現パターンの解析により、これらの解毒遺伝子がどのような機能をもつ祖先遺伝子から派生したのかについても最近の仮説を共有する。最後に、日本全土におけるこれら遺伝子の進化や発現動態を調べた結果をもとに、シロチョウが食草解毒遺伝子を2タイプ持つ生態的な意義について植物の化学防御の変動と照らして議論する。