| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W02-1  (Workshop)

ブナ種子の積雪下における発芽日の積雪環境に応じた局所適応
Local adaptation of the timing of Fagus crenata seeds germination under snow cover

*蛯名敢大(岩手連大), 石田清(弘前大)
*Kanta EBINA(UGAS, Iwate Univ.), Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

 落葉広葉高木種ブナ(Fagus crenata)の成木は,開花した当年の秋に自発休眠状態の種子を重力散布する.種子はやがて埋雪され,積雪下の冷温(0~2℃で一定)・湿潤・暗黒の環境条件に一定期間置かれることで生理的な休眠が打破され,積雪下において発芽し、幼根と下胚軸を土壌中に伸ばす(以下、積雪下発芽)。散布直後かつ積雪前の秋や,消雪後の春ではなく,積雪下発芽が選択された理由は明らかにされていない.
 積雪条件に応じた積雪下発芽の種内変異を評価するために,「冷湿条件における発芽に要した日数」を測定する実験を行った.標高430m~980mのブナ優占林7地点のブナ母樹35個体(5個体/地点)から40個ずつ採取した種子(計1,400個)を0℃に設定した恒温機内に置き,1週間ごとに発芽の有無を調べた.応答変数を「発芽に要した日数」,説明変数を「標高」,ランダム項を「母樹」とした線形混合効果モデルによる統計分析の結果,高標高の個体群ほど積雪下発芽に要した日数は有意に多いことが示された.
 積雪日(秋~冬に林床が積雪に覆われた日)や消雪日(越冬後,春に雪解けして林床が現れた日),積雪日数(林床が積雪に覆われていた日数)の標高傾度を評価するために,2011年~2024年に青森県八甲田山の各標高の森林において観測された地温のデータを用いて,一般化加法混合効果モデルによる統計分析を行なった.応答変数を「積雪日」,「消雪日」,「積雪日数」,説明変数を「標高」,ランダム効果を「年」とした解析の結果、標高と積雪日の間の関係は認められず(P = 0.75),その一方で標高が高くなるほど消雪日は遅くなり,積雪日数も多くなる傾向が認められた.
 以上の結果は,積雪下の環境条件への曝露が始まる日ではなく,積雪による種子の埋雪が終了する日もしくは積雪日数が選択圧となり,積雪下における発芽のタイミングが進化したことを示唆している.


日本生態学会