| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W03-3  (Workshop)

ヘラムシの柔軟な行動防御 ~防御タイミングの意味とは?~
Flexible behavioral defense in marine isopods: the significance of when to defend.

*五十嵐公一(北海道大学)
*Koichi IGARASHI(Hokkaido Univ.)

被食者の示す多様な防御戦略は,遭遇,検出,識別,接近,捕獲,消費にわたる捕食過程の中で各段階の進行を妨げるように発揮される.捕食者との接近後に用いられる二次防御は被食者にとって最後の手段であり,その失敗は致命的となりうる.一般に,被食者は狩猟様式の異なる複数の捕食者に同時にさらされている.このような状況下では,被食者は複数の捕食者を識別してそれぞれに効果的な防御を示すか,複数の捕食者に共通して機能する防御を示すことが適応的だろう.本発表では,海産等脚類における行動的な二次防御の事例研究を紹介するとともに,捕食過程にわたって防御が発揮されるタイミングの多様性についても議論したい.

日本各地の岩礁潮間帯でみられる,海産等脚類イソヘラムシは捕食者からの接触刺激に対して,えびぞり姿勢で数分間動かなくなる不動行動を示す.本研究では3種の魚類 (ハゼ,ギンポ,カジカ) と1種のカニに対する反応を比較し,不動行動の有効性を検証した.その結果,不動行動は魚類に対してのみ観察され,カニに対しては逃避反応が誘発された.不動行動を示した個体の捕食回避率は,ハゼで42.1%,ギンポで81.5%,カジカで29.2%であった.不動行動の発現は検出確率を低下させ,活動状態における魚類からの検出率は75.2%であったのに対し,不動状態では6.5%に低下した.一方,魚類種間でも不動行動の効果は異なった.大きな口をもつ待ち伏せ型捕食者であるカジカ科魚類では,攻撃が生じた場合にはすべての試行で捕食された.以上の結果から,イソヘラムシの不動行動は魚類に対する捕食者特異的な防御として機能しており,本種は捕食者の種類に応じて複数の防御行動を使い分けていることが示された.本研究は,二次防御の有効性が捕食者種によって大きく異なることを示し,複数の捕食者にわたってその機能を比較する必要性を示している.


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