| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W07-1 (Workshop)
スマトラ島のパダンの田園地帯にはコツメカワウソが生息する。コツメカワウソは準絶滅危惧種に指定されており、保護対象種であるが、現地では養殖池の魚を捕食する・稲を倒すなど、住民との軋轢が報告されている。コツメカワウソの保全と同時に軋轢の軽減を目的とする「コツメカワウソを象徴種とした生物共生農業」の構築には、基本的な生態の把握が不可欠である。近縁種のユーラシアカワウソでは糞DNAや自動撮影カメラを用いた研究が比較的盛んに行われてきたが、本種での研究は非常に限定的である。また群れを形成するコツメカワウソは単独性のユーラシアカワウソと生態が異なる可能性が高い。
そこで本研究では、溜め糞場を回り、自動撮影カメラを設置すると共に糞DNAを採集した。自動撮影カメラ調査ではコツメカワウソの群れ構成(単独vs. 群れ)、および同所的に生息する生物の在不在を記録した。糞DNAの分析ではMIG-seq法を用いて血縁関係の推定を試みた。さらに性判別マーカーを用いて、溜め糞場を訪れる個体の潜在的な性比を求めた。自動撮影カメラでは溜め糞場間で群れ構成が異なっており、ベンガルヤマネコやシベットなどの中型食肉目も撮影された。一方、MIG-seq法では個体識別および血縁関係の推定を実施できなかった。これは糞に存在する細菌等のカワウソ以外のDNAも増幅したためと考えられる。性判別マーカーによって溜め糞場の潜在的な性比はメスに偏っている可能性が示唆された。これはコツメカワウソでは成熟したオスが家族から離れる一方で、メスは留まるために家族構成がメスに偏っている可能性を示唆する。ユーラシアカワウソでもオス分散であることが知られており、家族構成は異なっても分散様式は共通なのかもしれない。
本研究では、溜め糞場において、探索的に複数の手法で生態の解明を目指した。個体間のコミュニケーションの場である溜め糞場は個体群管理に利用できる可能性があり、更なる研究が求められる。