| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W09-2 (Workshop)
植物の光合成と蒸散は、個体の生存を左右するのみならず、生態系の炭素・水循環を規定する根幹過程である。それらを高頻度かつ多地点で同時に捉える観測基盤は実際には脆弱であり、研究の進展を制約している。これらの生理現象は種の生存戦略や環境応答を鋭敏に反映するため、種間比較や長期継続観測が広く行われ、データの大量収集の需要は高まり続けている。だが、計測手法の多くは過去20年で大きく変化しておらず、高価な機器の複数導入と現場研究者の多大な労力によって観測需要が支えられてきたのが実情である。近年の電子情報技術の進展によりガス交換計測機器の自作も可能となったが、大量データ収集を阻む障壁はなお高く、全体像の把握には至っていない。
本講演では蒸散流計測を題材に、多数個体・多地点同時観測を志向した蒸散流計測システムの確立と運用の実態を紹介する。本システムは枝茎に密着して蒸散流を測定するセンサーと、その制御およびデータ受信を担う情報端末から構成される。工場発注可能な形態のセンサーを開発し、物理強度と防水性を向上させることで、煩雑であった大量製作や、野外現場での故障対応の労力を大幅に低減した。さらに常時ネット接続により遠隔から即時にデータと稼働状況を把握でき、頻繁な現地往訪を不要とした。本システムを用いた試行研究では、福岡県の低地および山地でブナの蒸散連続観測を実施し、分布南限付近の湿潤低地における飽差上昇に伴う頻繁な蒸散調節を捉えた。講演では実験の詳細と今後の大規模観測の展望を示す。