| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W10-1 (Workshop)
光や温度などの環境要因は多くの生態系において周期的に変化する。沿岸湿原では約12.4時間周期の潮汐サイクルによって水位が変動するため、植物は周期的な水没と干出という急激な環境変化に適応する必要がある。植物の異質倍数化は、異なる環境に適応した親種由来の複数のサブゲノムを併せもつことで、広い環境応答能を獲得すると考えられてきた。しかし、潮汐サイクルのような短周期の環境変化に対する応答への関与は十分に検証されていなかった。本研究では、潮汐環境に進出した異質四倍体植物であるオオバタネツケバナ(Cardamine scutata)を対象に、周期的な水没に同調した遺伝子発現リズムと、サブゲノム間の機能的な発現制御の違いを検出した。野外の潮汐集団と非潮汐集団から3.1時間おきに葉を採取し、トランスクリプトーム解析を行なった。その結果、12.4時間周期の発現リズムを示す遺伝子は、非潮汐集団で36個、潮汐集団で1226個検出された。潮汐集団では水没時に高発現となる遺伝子が多く、GO解析から低酸素応答や病原体応答との関連性が示唆された。さらに、グルコシノレート代謝関連遺伝子の一部では、非潮汐集団で24.8時間周期を示していた発現リズムが潮汐集団では12.4時間周期へと変化しており、防御応答の活性化タイミングが潮汐条件下で再編成されている可能性が示された。加えて、水没時に発現ピークを示す遺伝子は高湿環境を好むC. amara由来のサブゲノムに相対的に多く、干出時にピークを示す遺伝子は中湿環境を好むC.parviflora由来のサブゲノムに多い傾向がみられた。また、それらの遺伝子群は異なる機能的特徴を有していたことから、親種が生育する湿度環境に対応する潮位において、サブゲノム間で機能的分担が示唆された。以上より、本種の潮汐環境への適応は、潮汐サイクルに同調した周期的な遺伝子発現と、潮位に応じたサブゲノム間の機能分担によって支えられていることが考えられる。