| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W10-2  (Workshop)

社会性昆虫ミツバチの概日リズム形成と調節機構
Circadian rhythm formation and its regulatory mechanisms in the honey bee, Apis mellifera

*渕側太郎(大阪公立大・院理)
*Taro FUCHIKAWA(Osaka Metropolitan University)

 多くの生物は,約1日周期の概日リズムによって行動や生理現象のタイミングを最適化し,エネルギー効率の向上や繁殖機会の増大を通じて適応度を高めている.これまでの時間生物学研究は主に実験室環境下で進められてきたが,実際の野外環境は物理的・生物的にきわめて複雑であり,生物は非生物的(物理的)環境や生物的(社会的など)環境に応じて多様な時間的適応を示す.
 代表的な社会性昆虫であるミツバチでは,集団で閉鎖空間に暮らし,分業によって個体ごとに異なる生活様式をとるため,概日リズムにも明瞭な違いが生じる.巣外で採餌に従事する個体は明確な概日リズムを示す一方,巣内で育児に従事する個体では昼夜を通した活動が見られ,概日リズムは弱い.さらに,担当する仕事を変更すると行動リズムも可塑的に変化するが,その生理的基盤はほとんど解明されていない.
 昆虫の概日時計はショウジョウバエを用いた研究によって詳しく明らかにされており,ミツバチにおいても時計機構自体は基本的には共通であると考えられている.しかし,リズムの修飾や可塑性は,脳内時計で生成された時刻情報が末梢へ出力される過程で制御されている可能性が高く,出力機構の解明は重要な研究課題である.本講演では,ミツバチにおける時刻情報の出力機構および概日リズムの可塑性を調節する仕組みについて,現時点で得られている知見を紹介する.
 さらに別の話題として,概日リズムを生み出す時計遺伝子について,動物における進化的保存性と多様化に関する最近の研究を紹介する.これらの遺伝子は動物進化の過程で広く保存されてきた一方,社会性昆虫を多く含むハチやアリの仲間,シロアリ類では,特徴的な遺伝子構成が見られる.
 以上の知見を踏まえ,本講演では,社会的環境といった複雑な野外環境下において,概日リズムがどのように制御され,適応しているのかについて総合的に議論する.


日本生態学会