| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W12-2  (Workshop)

血縁認識に基づく花サイズの利他的・利己的応答の進化
Altruism or Selfishness: evolutionary conditions of floral behavior in response to neighboring kinship

*冨塚暖史(東京都立大), 山尾僚(京都大学), 立木佑弥(東京都立大)
*Haruto TOMIZUKA(Tokyo Metropolitan Univ.), Akira YAMAWO(Kyoto Univ.), Yuuya TACHIKI(Tokyo Metropolitan Univ.)

植物は、周囲の同種他個体との遺伝的近縁性に応じて行動を変化させることが示唆されている。Torices et al., (2018, Nat. Commun.) は、血縁者と共に生育した植物が、非血縁者と生育した場合と比べて大きな花を形成する傾向を報告した。この現象は、個体がコストを負担して花を大きくすることでパッチ全体の送粉者誘引を高め、血縁者の受粉率増加をもたらす利他行動として解釈されてきた。しかし、この解釈が正しいかどうかは実験的な証明が難しく、理論的な検証が求められている。
本研究では、血縁認識が花サイズに与える一般的なパターンを明らかにするため、花サイズを進化形質とした個体ベースシミュレーションを行った。メタ個体群モデルを採用し、植物は同パッチに存在する他個体との遺伝的近縁性に応じて、異なる花サイズを呈す二つの戦術から一方を採用できることとした。
結果、血縁認識が2つの異なる戦略の進化を促すことが示された。1つ目は、血縁者に対して花を大きくする利他行動である。この応答は、花の形成・維持にかかるコストを多く支払う一方で、周囲の血縁者の受粉率を高め、包括適応度を最大化する。2つ目は、非血縁者に対して花を小さくするフリーライダー戦略である。この応答は、花形成のコストを削減し、送粉者誘引を周囲の非血縁者に依存することで自らの適応度を高める。本研究の結果は、血縁個体と共に生育する植物が非血縁個体と比べてより大きな花を形成するという観察事実が、(1)血縁者への利他行動、(2)非血縁者へのフリーライダー、(3)その両方という、複数の異なるメカニズムによって生じうることを理論的に示した。さらに、血縁認識に基づく花サイズの変化は、単一種内の現象に留まらず、種間相互作用にも影響を及ぼしうると考察できる。パッチ内で確率的に変動する血縁関係は、花サイズの空間分布を複雑化させ、送粉者の分布パターンに影響を与える可能性がある。


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