| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W15-1  (Workshop)

日本産湧水棲貝形虫(甲殻類)の多様性研究
Diversity of spring-dwelling Ostracoda (Crustacea) in Japan

*宗像みずほ(北海道大学)
*Mizuho MUNAKATA(Hokkaido Univ.)

本発表では国内の湧水における貝形虫の種多様性と,湧水特異的に広域分布する3種の遺伝的多様性の解明に向けた研究を紹介する.発表者はこれまで水棲甲殻類の一群の貝形虫を対象に湧水における多様性研究を行ってきた.貝形虫は小型で採集網の目合いから取りこぼされやすく,肉眼ソーティングで見落とされ,同定が難しい群も多いため生態学的研究は限られてきた.さらに国内の湧水棲貝形虫の分類学的研究は西日本の7地域に偏り,報告は3科13属17種に留まっていた.また貝形虫は生涯底生で体長約1 mmと小型なため能動的な分散能力は低い.湧水間は地理的に隔離されているため,分散能力の低い生物では分布域が限定される,あるいは広域分布であっても各湧水で高い地域固有性が生じると想定される.先行研究では,貝形虫でヨーロッパ一帯に広く分布する種が報告されているものの,それらの遺伝的構造が検証された例はない.
まず日本産湧水棲貝形虫の種多様性を明らかにするため,日本全国130の湧水で採集調査を行った.その結果29種を採集し,既報17種との重複を考慮すると,計42種が知られることとなった.希薄化曲線は頭打ちにならず,追加調査で未記録種が得られる可能性が示された.
次に遺伝的多様性の解明を目的とし,湧水特異的に広域分布する貝形虫3種を対象に集団ゲノミクス研究を行った.MIG-seq法により9,10,5つの湧水 に由来する28,39,33個体を解析し,7226,5161,5389 SNPsを得た.得られたSNPsを用いてNeighbor-Net,PCA,STRUCTURE解析とFst算出を行った結果,Cavernocypris属2種では地域集団ごとの分化と高い地域固有性が示された.一方,L. fonticolaでは東日本一帯に2つの遺伝的クラスターが存在し,最長で利尻島〜山梨の間での遺伝的交流が示唆された.
これら3種の遺伝構造の違いには系統が関与している可能性が高く,特に乾燥耐性など受動分散に関わる生態的要因について検討が必要である.


日本生態学会