| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W15-2 (Workshop)
湧水は水温や流量などの安定性から環境変動に対する「普遍的なレフュジア」と考えられてきた。しかし、その機能解明には、空間自己相関(地理的ノイズ)の排除と、環境要因(ボトムアップ)と捕食圧(トップダウン)の相対的重要性の同時検証が不可欠である。本研究では、湧水・非湧水河川がランダムに隣接する北海道空知川上流域において、空間構造の影響を厳密に評価した上で、局所環境ー群集ー捕食者の関係性をみた。具体的には、45地点の底生無脊椎動物群集を対象にまず、空間構造を評価した。その後、一般化加法混合モデルと階層分割(rdacca.hp)を用い、多様性指標に対する環境因子と捕食者密度の独立寄与率を算出した。
空間解析の結果、空間自己相関は非常に小さく、群集形成が広域的プロセスではなく純粋に局所要因に依存していることが担保された。湧水の有無で物理化学環境には有意差が生じたが、驚くべきことに群集組成(β多様性)に明確な群間差は認められなかった。しかし階層分割解析では、アバンダンスと多様性を規定する主因として「流速(68%)」と「捕食者密度(20–39%)」が抽出された。対照的に、水温や底質の直接的寄与は限定的であった。
本研究により、渓流生態系における湧水は普遍的なレフュジアというより「生物間相互作用を介した条件依存的なレフュジア」であることがわかった。環境差が組成差に直結しない事実は、湧水が単一の環境フィルターとして普遍的に機能するわけではないことを示す。今回の場合、多様性が高まるのは、湧水が特定の流況を創出し、かつ捕食者によるトップダウン制御が有効に機能する局所環境条件が成立した場合に限られる。結論として、湧水は単なる物理的避難所として機能する以上に、特定の生物間相互作用を駆動する基盤として生態学的文脈に依存して多様性を支えている。本知見は湧水のレフュジア機能を明らかにするうえで、空間配置や局所環境条件、生物間相互作用の考慮が不可欠であることを強調する。