| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W16-4  (Workshop)

東日本大震災の経験から:低頻度大規模自然撹乱に対する防災・減災と生物多様性の両立
Lessons from the Great East Japan Earthquake: Balancing Disaster Risk Reduction and Biodiversity under Large-scale, Low-frequency Disturbances

*松島肇(北海道大学)
*Hajime MATSUSHIMA(Hokkaido Univ.)

本報告では、東日本大震災後の復旧・復興プロセスにおける生態学的課題を整理し、海浜生態系の視点から「事前復興」へ向けた具体的な指針を提案する。
震災後の復旧・復興事業における主な課題は、以下の3点に集約される。 第一に、海浜エコトーンへの理解不足である。防潮堤建設等により陸域と海域の連続性が断絶され、貴重な生態系ユニットの減少・消失を招いた。 第二に、行政・管理者間の調整不足である。海岸・森林の各管理者が「国土強靭化」の下で個別最適化を図った結果、十分な環境影響評価がないまま、長大な防潮堤建設や内陸土砂による盛土・植林といった大規模な環境改変が進行した。 第三に、人為的改変に関する事後検証の不足である。震災から15年が経過した現在、研究者レベルでは海浜生態系の消失リスク増大や、外来種の侵入による種構成の変化が報告されている。今後は、事業全体を包括的に評価する仕組みが不可欠である。
以上の教訓を踏まえ、海浜地域における事前復興の在り方として、生態系のレジリエンスを活用した「減衰型多重防御」を提案する。これは、飛砂や波浪による撹乱を許容し、汀線から十分な距離を確保した上で小規模な防潮施設を多層的に配置する「沿岸域の流域治水」とも言える考え方である。 また、このプロセスには地域住民との協働が欠かせない。レジリエンスを活かした自然再生は市民レベルでも実践可能であり、身近な生態系への理解を深め、主体的に復元に関わることは、Nature Positive達成に向けた重要な社会変革となる。現在、津波被災地の小学校を核としたこのスキームのモデル化に取り組んでおり、その進捗についても報告する。


日本生態学会