| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W19-2 (Workshop)
日本を含む温帯域では、気温や日長、降水量などの生物を取り巻く環境は、年間を通して大きく変動する。このような季節的な環境に適応するために、生物は季節に合わせて成長や繁殖を同調させる仕組みを獲得してきた。
近年次世代シークエンサを始めとする技術発展により、生物が実際に生活する野外環境下において、トランスクリプトームやエピゲノム情報などを網羅的に取得することが可能となった。例えば、野外植物から年間を通して継続的に組織を採取し、遺伝子発現を解析することで、開花や展葉、休眠といったマクロな季節応答(フェノロジー)の背後にある、発現レベルの季節応答(分子フェノロジー)を追跡することができる。こうした研究により、開花期などのフェノロジー多様性を支える、遺伝子発現レベルの季節応答の種間差が見出されているものの、種間で多様な遺伝子発現応答がどのように獲得されてきたのかは不明である。
そこで本講演では、野外樹木の遺伝子発現応答の種間多様性におけるシス調節配列の寄与に注目し、現在発表者が進める、分子フェノロジーデータと機械学習を用いた遺伝子発現予測および調節モチーフ探索について紹介する。北半球の森林生態系を支える主要な樹種であるブナ科樹木アラカシ・マテバシイの葉と芽で得られた2年間の分子フェノロジーデータとゲノムデータを用いて、各遺伝子近傍のDNA配列からその遺伝子の野外における遺伝子発現の有無を予測する深層学習モデルを構築した。その結果およそAUCで0.8以上の精度で発現の予測が可能な一方、予測が困難な遺伝子群が一部存在することが見出された。さらに、学習したモデルをもとに、発現予測に強く寄与する配列を抽出し、遺伝子発現量の調節に関わるシス調節配列の同定を行った。今後、サンプル採取時の気温などの環境データを組み合わせ、DNA配列からの遺伝子発現レベルの環境応答予測や調節配列の同定を目指している。