| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W20-3 (Workshop)
森林生態系の修復では、炭素吸収や生物多様性の便益が現れるまでに数十〜百年を要し、便益を享受する世代と費用を負担する世代にずれが生じる。そのため、施業の回復速度を示すだけでは地域の意思決定に不十分であり、将来便益をどれほど重視するか(時間選好・割引率)も含めて評価する必要がある。本発表では、自然科学として“最良”に見える修復施業が、社会経済的にも“最適”となるのかを検証する。
まず森林景観モデル iLand を用い、植栽密度と植栽種数を組み合わせた複数の修復シナリオを設定し、100年間の回復過程をシミュレーションした。炭素貯留および生物多様性指標について、自然林水準に向けた回復速度を比較し、「生態学的に速い修復」の条件を整理した。次に全国オンライン調査により、回復が異なるシナリオに対する支払意思額を測定し、その差から個人の割引率を推定した。その結果、平均的な割引率は比較的低く、将来便益を強く重視する傾向が示された。
最後に、モデルが推定した回復便益と、シナリオごとの費用(植栽本数や種数の違いによる増減)を統合し、割引率を変えた費用便益分析を行った。すると、生態学的に最も回復が速い施業と、経済的に最も合理的と判断される施業が一致しない場合が明確に現れ、割引率の設定によって「最適解」が大きく変わることが分かった。
以上より、調査とモデルの成果を地域での合意形成や実施計画に落とし込むには、回復予測を社会の時間選好と同じ土俵で扱い、「どれが速いか」だけでなく「誰がいつ便益を受け、誰が費用を負担するのか」という世代間・利害関係者間の視点を組み込んだ選択肢として提示することが重要である。