| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W21-1  (Workshop)

昆虫はどのように花の「地形」を認識して蜜源へたどり着くか?
Floral structure recognition and directed locomotion toward nectar in flower-visiting insects

*山崎遥, 林優人, 桂宗広, 石川由希(名古屋大学)
*Haruka YAMAZAKI, Yuto HAYASHI, Munehiro KATSURA, Yuki ISHIKAWA(Nagoya Univ.)

訪花性昆虫は、花がもたらす様々な情報を利用して巧みに蜜源へと到達する。この蜜源を推定する能力は、植物の送粉戦略を介して動植物の表現型の共進化に影響する重要な形質である。これまで、訪花性昆虫の蜜源推定能力は、ミツバチやスズメガなどの中・大型訪花昆虫を対象に、遠くから花を見つけて降り立つまでの過程が注目されてきた。一方で、実際の訪花昆虫相の約半数を占める小型昆虫に関する知見はほぼない。花と昆虫の相互作用を包括的に理解するためには、小型昆虫の行動特性を解明することが不可欠である。小型昆虫にとって花は自身の体サイズの何十倍にも及ぶ複雑な「地形」であり、彼らの蜜源推定能力は、中・大型種とは根本的に異なる可能性が高い。そこで本研究では、小型訪花性昆虫であるカザリショウジョウバエを対象に、生花や造花における蜜源探索行動をトラッキングすることで、本種が蜜源推定に用いる感覚情報を調べた。
まず、生花での観察から、花に降り立ったハエの約8割が蜜源へ到達することがわかった。蜜源にたどり着いた個体の移動様式には、蜜源へ「直行型」と「迷走型」の2パターンが存在した。次に、視覚、聴覚、化学感覚(味覚・嗅覚)をそれぞれ制限すると、視覚制限条件下において蜜源への到達割合および「直行型」の割合の顕著な減少がみられた。このことから、効率的な蜜源探索には視覚情報が重要であることが示された。さらに、探索に用いる情報を絞り込むため、花色や花弁のしわ・溝を操作した3D模型における探索行動を観察すると、これらの形質を排除しても個体は蜜源へ到達できることが示された。このことから本種は、中・大型訪花昆虫ではこれまで報告されていなかった、花全体の「かたち」情報そのものを利用した蜜源推定能力をもつと考えられる。本講演では、このような小型訪花性昆虫における未知の蜜源探索能力を紹介し、花との相互作用や共進化について議論する。


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