| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W21-4 (Workshop)
生涯のうち海洋と河川の間を行き来する回遊魚は「通し回遊魚」と呼ばれる。海水と淡水という異なる塩分環境を移動するその生活史は、多くの研究者を魅了してきた。さらに通し回遊魚の中でも、すべての個体が回遊するとは限らず、生涯を通じて出生環境に残留する個体も出現することから、通し回遊は生活史進化や回遊の起源を検討する上で重要な研究対象となってきた。従来の研究は、海へ回遊するか否かを二項対立的に捉える枠組みを中心に展開されてきた。しかし近年、回遊行動の追跡・復元に関する技術が進展し、個体レベルの移動履歴を高精度に推定できるようになった。その結果、同じ「回遊型」とされる個体であっても、海洋・河川の利用様式が個体間で大きく異なることが明らかになりつつあり、回遊の多様性そのものへの関心が高まっている。
本発表では、まず、海と川の間を往来する魚類の通し回遊行動に関する先行研究を整理し、通し回遊の定義と典型的な回遊パターンを概説する。次に、発表者が扱ってきた回遊性サケ科魚類のデータを中心に、個体が示す多様な回遊生態を紹介する。あわせて、その出現傾向と環境要因との関連、特異な回遊パターンが個体群の維持や分布拡大に果たす役割について考察する。さらに、回遊の多様性にみられる系統発生学的・地理的傾向を手がかりに、通し回遊の起源と共通性、および多様化を駆動する要因について議論する。