| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W22-1  (Workshop)

ヒルギ科マングローブ植物の呼吸温度依存性と繁殖季節性との関係
Temperature dependance of O2 respiration in mangrove trees: implications for seedling dispersal phenology

*井上智美(国立環境研究所)
*Tomomi INOUE(NIES)

 ヒルギ科マングローブ植物は、親木についたまま胚軸を伸長させてから落果させる「胎生種子散布」という特異な繁殖散布様式を持っており、落果した散布体は休眠せずに成長を開始する。マングローブ北限に近く、気温の季節変動が大きい日本において、ヒルギ科マングローブ植物3種(メヒルギ、ヤエヤマヒルギ、オヒルギ)の散布フェノロジー(初期成長期の気温レンジ)が異なっていることから、当年生実生の生理機能の温度依存性が3種で異なっている可能性がある。この発表では、沖縄県西表島に生育するヒルギ科3種について、実生の初期成長期間(落果後およそ8週間)の成長速度と呼吸速度の温度依存性(15~30℃)を比較した結果を紹介する。
 3種の中で最も寒い季節に胎生種子を散布するメヒルギは、低温下で生育させた個体ほど成長速度が速く、葉と根の酸素呼吸速度が高くなる傾向を示した。メヒルギは気温が低下しても呼吸エネルギー生産を維持する機構を備えている可能性がある。これに対して、暖かい季節に限定して胎生種子を散布するヤエヤマヒルギの葉の成長速度の温度依存性は、29℃を極大にした凸型曲線を描き、15℃以下ではマイナスとなった。低温下で生育させた個体は、葉の酸素呼吸速度を若干上昇させたものの、根の酸素呼吸速度を顕著に低下させていた。低温下では根の呼吸エネルギー生産の低下が水分や養分の吸収を制限し、成長速度が低下していたのかもしれない。胎生種子の散布期間が長く、比較的幅広い気温下で実生を定着させるオヒルギの葉の成長速度の温度依存性は、ヤエヤマヒルギと同様の凸型曲線を描いたが、ヤエヤマヒルギに比べて極大値の温度が高く(35℃)、成長速度がマイナスになる低温側の限界温度が低かった(12℃)。葉と根の酸素呼吸速度の温度応答もヤエヤマヒルギに似ていたが、低温による根の酸素呼吸速度の低下はヤエヤマヒルギよりもマイルドだった。


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