| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W22-2  (Workshop)

分子フェノロジーによる地球温暖化がソメイヨシノの休眠打破に及ぼす影響の予測
Predicting the impact of global warming on dormancy release in the Yoshino cherry tree through molecular phenology

*桑門温子(九州大学)
*Atsuko KUWAKADO(Kyushu Univ.)

 日本において春の訪れを象徴する植物といえばサクラである。近年、地球温暖化の影響により、全国的に開花日の早期化が報告されている一方、2024年には暖冬の影響により自発休眠の打破が遅れ、九州地方を中心に開花の遅れが生じた。今後、暖冬の影響が一層強まる中で、サクラ開花日を正確に予測するためには、開花直前の他発休眠だけでなく、その前段階である冬の低温を必要とする自発休眠およびその打破の仕組みを考慮した予測が重要である。
 自発休眠の打破は視覚的に検出することが難しく、休眠マーカーであるDORMANCY-ASSOCIATED MADS-boxDAM)遺伝子の自然環境下での機能は十分に解明されていない。そこで本研究では、自発休眠打破を遺伝子発現レベルで予測する数理モデルの構築を目的として、札幌・筑波・福岡の3地点におけるクローンであるソメイヨシノ(Cerasus × yedoensis ‘Somei-yoshino’)の頂芽(葉芽)の季節的な遺伝子発現変動を解析した。その結果、初夏・夏・秋・冬・春の5つの遺伝子発現プロファイルが認められ、日平均気温が約10℃まで低下すると冬および春のプロファイルが現れた。さらに6つのDAM遺伝子のうち、DAM4が自発休眠段階を最もよく反映し、初冬に増加後、厳冬期に低下して休眠打破に至ることが示唆された。興味深いことに、札幌ではこの段階進行が約1か月先行した。DAM4の分解速度を示す簡易モデルから、3地点平均で10.1℃未満の温度に61.1日間曝露されることで休眠打破の閾値以下に達すると推定され、1990年から2020年にかけて10年当たり約2.3日休眠打破が遅延したと推定された。
 さらにモデルの予測精度向上を目的として、2023年9月から2024年3月にかけて、ソメイヨシノの頂芽および側芽(花芽)を1~2週間間隔で採取し、DAMの発現変動に基づく自発休眠の導入から打破までを記述する数理モデルの改良を進めている。ここでは、改良モデルを用いた将来の地球温暖化条件下における休眠打破時期の予測についても紹介する。


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