| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W29-4 (Workshop)
多細胞性の進化は生命史を方向づけた主要転換点の一つであり、その成立条件の理解は進化生物学の重要な課題である。なかでも、細胞が直線的に連結した糸状形態は、多細胞化の初期段階を表す代表的形態であり、藻類・細菌・菌類など多様な系統で独立に進化してきた。しかし、糸状性の進化を規定する生態学的条件は体系的に理解されていない。
細胞が糸状に連なることは、体サイズの増大とみなせ、増殖速度が低下するコストと、捕食を回避する利益のトレードオフにさらされる。また、捕食者には一般に最適な餌サイズがあり、その最適値から外れるほど捕食圧が低下するため、糸状体の進化は捕食者のサイズ選好性に依存すると考えられる。糸状性シアノバクテリアでは、細胞エンベロープ関連遺伝子の変異が糸状体長を変化させることが知られている。この知見に基づき、本研究では細胞間接着性を進化形質として定義した。糸状性生物と捕食者の個体群動態モデルを構築し、adaptive dynamicsの枠組みで解析することで、細胞同士が接着し多細胞化する条件を導出した。
その結果、細胞間接着性の進化的帰結は増殖速度と捕食回避のバランスによって決定された。特に、捕食者の存在は多様な進化的帰結を生み出す要因として作用した。捕食者が短い糸状体を好む場合、接着性は正の値へと進化し多細胞性が生じた。一方、捕食者がある程度以上の長さを好む場合には、接着性の進化に初期値依存性が生じ、進化の初期状態に依存して単細胞性もしくは非常に高い接着性を持つように進化した。したがって、単細胞生物が長い糸状体へと進化するには、短い糸状体を好む捕食者から長い糸状体を好む捕食者へと段階的にさらされる必要がある。さらに、捕食圧の条件によっては進化的分岐が生じ、単一形質の系から、接着性が高い糸状性と単細胞性の二型が出現した。以上より、捕食者のレジームに依存した多細胞性の多様化シナリオを提示する。