| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W30-4 (Workshop)
高山植物は低温や強光などの過酷な環境下で生育するために多様な適応メカニズムを獲得している。生育する標高により葉の形態が変化する植物も知られており、先行研究からは、葉形態は標高と負の相関を示すこと、またその要因は、低温や短波長の光、強風などの高山環境における環境ストレスによるものと推察されている。さらに生育高度に伴い、抗ストレス性の高いフェノール化合物の蓄積が増加する植物も報告されている。
植物が合成するフェノール化合物の中でも、特にフラボノイドは、10,000を超える多様な構造を持ち、環境ストレス耐性の獲得に寄与するとされる。フラボノイドの生体内での機能は多岐に渡るが、特に標高が高く、紫外線ストレスが多い高山でその含有量が増加することが明らかとなっている。
本発表では、多くの高山植物から得られている知見も交えながら、日本固有種であるイワカガミSchizocodon soldanelloidesの化学的適応について紹介する。イワカガミは高山帯の幅広い標高や環境に分布し、かつ同種間でも葉の形態が生育環境により変化する特徴を持つ。そこで標高および日照条件の異なる地点から葉を採集し、葉で合成されるフラボノイド成分と環境ストレス、特に先行研究で言及されている標高および日照ストレスとの関連性を探った。
生育環境の異なるイワカガミを比較した結果、葉の形態とフラボノイド成分量には相関があり、葉が小型の個体ほど強い環境ストレスを受けていることが示唆された。また日照・高標高環境では、抗ストレス性の高いB環カテコール構造のアグリコンをもつquercetin配糖体のフラボノイドが選択的に増加した。一方で、全地点で主要であったrutinoseで修飾された配糖体や、高いUV-B吸収能を有するgallic acid修飾型などのフラボノイド成分の蓄積傾向には、生育環境に伴う顕著な変化は認められなかった。このことから、イワカガミの化学的適応には、フラボノイドのアグリコンのB環の構造が重要であることが示唆された。