| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W31-1 (Workshop)
季節的に変動する環境で生きる生物は、成長や繁殖といった生活史上の重要なイベントのタイミングを調節することで変動環境に適応している。特に、繁殖を成功させるためには、開花・受精・結実などの一連の繁殖イベントが適切な季節に進行する必要がある。このような季節的制約のもとでは、繁殖イベントの進行が一時的に遅延し、繁殖イベント間の期間が長期に及ぶ場合がある。
被子植物では通常、開花から受精・結実までを1年以内に完了させる「1年成」を示す一方、北半球の森林生態系の優占樹種であるブナ科樹木の多くは、受精・結実が開花翌年まで遅延する「2年成」と呼ばれる興味深い繁殖様式を示す。2年成種の中には1年以上もの長期間受精遅延を示す種があるが、受精遅延のメカニズムは十分には解明されていない。
本研究では、受精遅延に寄与する候補遺伝子群を特定するために、2年成種マテバシイ(Lithocarpus edulis)の雌花を対象に、切片観察による胚珠発達ステージの季節変化とトランスクリプトーム時系列解析を行った。開花から受精に至る約1年間にわたり月ごとにサンプルを分析し、胚珠発達ステージの季節変化と遺伝子発現量との相関解析から、胚珠発達と関連の深い遺伝子群を抽出した。その結果、胚珠発達を促進することで知られるMADS-box転写因子SHATTERPROOF1 (SHP1)、SEEDSTCK (STK)が候補遺伝子として特定された。これらの遺伝子は開花直後から低発現であり、冬期の低温を経験した後の2年目の春にかけて胚嚢分化が進行する時期に発現上昇を示した。
これらの結果は、マテバシイにおいても他の被子植物と共通する胚珠発達関連遺伝子が機能していること、さらにそれらの遺伝子発現が季節的な環境変動に応じて時間的に制御されることにより、冬を経た後に受精が完了するという2年成が成立していることを示唆している。