| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W31-2  (Workshop)

受精遅延するコウモリの精子貯蔵と強制交尾
Mating in the cold: Winter sperm storage in the Japanese little horseshoe bat

*佐藤雄大, 杉山稔恵, 関島恒夫(新潟大学)
*Takahiro SATO, Toshie SUGIYAMA, Tsuneo SEKIJIMA(Niigata University)

繁殖遅延は、哺乳類でも幅広くみられ、目レベルでは全体の3分の1に相当する分類群で確認されている。哺乳類における繁殖遅延は、交尾から出産に至る生殖過程の一部が中断される状態を指し、どの段階が中断されるかに応じて、受精遅延、着床遅延、および発生遅延と呼ばれる。コウモリ目は、ネズミ目に次いで種多様性が高く、進化の過程で3種類の繁殖遅延すべてを獲得しているという点で、哺乳類の季節適応と繁殖戦略の多様化を代表する分類群といえる。冬眠するコウモリには受精遅延型の繁殖スケジュールをもつものが多く、交尾は秋に行われるが、排卵・受精は冬眠から目覚める春先に起こる。その興味深い特徴として、交尾後、メスに受け渡された精子は生殖管内で貯蔵されることが挙げられる。日本に広く生息するコキクガシラコウモリは受精遅延型の繁殖周期をもつが、メスによる精子貯蔵だけでなく、オスも冬眠期間中に精子を貯蔵し続けることができる。さらに、冬眠から中途覚醒したオスは、洞窟内で冬眠中のメスに対して強制交尾を行うことがわかっている。一般的に、冬眠する哺乳類では低体温・低代謝によって生殖機能は抑制されるが、本種は冬眠中に精子や交尾に係る生理機能を維持する仕組みをもっていると考えられる。さらに、受精遅延する種では、交尾から受精までに数ヶ月のタイムラグを生じるため、受精成功をめぐるオス間競争が促進されやすい。そのため、冬眠中の交尾は、メスによる選択を回避して、より多くの交尾機会を得るためのオスの戦略なのかもしれない。本発表では、コウモリの受精遅延が繁殖周期の季節適応というだけでなく、性選択を介した生理・行動特性の進化にも関わっている可能性について考察する。


日本生態学会