| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


自由集会 W31-3  (Workshop)

キタキチョウの越冬前交尾から探るオスの生活史の多型
Pre-winter mating and the alternative life cycles of males in Eurema mandarina

*小長谷達郎(奈良教育大学)
*Tatsuro KONAGAYA(Nara University of Education)

冬は昆虫類の生存や繁殖に不適な季節である。この冬への対応として昆虫類は多様な越冬戦略を進化させてきた。成虫越冬する種のメスは越冬しなければ繁殖できないため、雌雄の両方が生殖休眠し、越冬後の春になってから繁殖する種が普通である。ところが、オスが秋のうちに死滅し、精子を蓄えたメスのみが越冬する種も存在する。越冬しないオスの進化は興味ある問題である。この問題に取り組むうえで興味深い昆虫がキタキチョウEurema mandarinaである。キタキチョウには越冬しない夏型と越冬する秋型という2種類の季節型がある。秋型は幼虫期の短日低温により誘導され、秋季に羽化するメスはほとんど秋型のみである。ところが、他種と異なり、十分な短日低温条件でもオスに夏型と秋型の両方が羽化するため、秋季には夏型オス・秋型オス・秋型メスの3者が同所で飛翔するようになる。越冬しない夏型オスが秋に出現するのは秋型メスが越冬の前後に交尾活性をもつことと関係している。精子の貯蔵コストを考えると、メスの越冬前交尾の意義にも説明が必要であり、越冬前交尾を春に交尾できないことへの備えとする「保険説」や越冬前交尾により越冬用の栄養を得るという「栄養説」が提案されてきた。これらの仮説は互いに排他的ではない。野外個体を解剖したところ、越冬前交尾した秋型メスは、越冬後まもなく秋型オスと再交尾し、その後に産卵する場合の多いことがわかった。野外のキタキチョウの越冬成功率は低いと推定されている。その一方で、越冬前交尾したメスは越冬前交尾をしなかったメスよりも低温での生存率が高いことが室内実験により示されている。この結果は「栄養説」を支持している。キタキチョウ以外の種でも越冬前交尾する昆虫は越冬成功率の低い場合が多いようであり、成虫越冬する昆虫類の生活史の進化を理解するには雌雄双方にとっての越冬前交尾の意義の解明が重要と考えられる。


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