| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W33-2 (Workshop)
ゲノムサイズ(GS)は種間・種内レベルの双方で変異を示す生物個体の基本的特徴量であるが,その進化過程や生態的意義には未解明な点が多い.特に,進化的背景を共有する種内での変異は理想的な比較研究対象であるにもかかわらず,実証研究は限られている.
本研究では,倍数性と繁殖様式に種内変異が認められる非飛翔性昆虫ヒョウタンゾウムシ属Catapionusを対象に,全国規模の野外調査と遺伝解析を行った.その結果,北に広く分布する高次倍数体の単為系統は単一起源であり,遺伝的に隔離された有性系統間の交雑がその進化過程に関与した可能性が示唆された.またホスト植物根圏における個体群密度を調べた結果,有性系統の密度が低下する高緯度地域において単為系統が出現していた.この分布傾向は低密度下における単為生殖の定着成功を予測するBaker’s lawと整合的である.
一方,倍数性の地理的分布を調べる過程で,本属の二倍体有性系統において,倍数性は同一であるにも関わらず,種内で2倍以上にも達する連続的なGS変異の存在を見出した.リシーケンス解析の結果,このGS変異はトランスポゾン含量によって説明されることが示された.生態ニッチモデリングによって二倍体有性系統の各地点における生息環境の好適度を推定したところ,生息に適した環境でGSが巨大化する傾向が認められた.大きなGSはDNA複製および維持の面でコストを伴うことが知られており,この結果は生息不適環境ではGSが制約を受ける可能性を示唆する.
本講演では1980年代までに高次倍数性単為生殖が報告されたゾウムシ研究を足掛かりとして,2021年よりゼロスタートで開始された研究が,予期せぬ種内GS変異の発見へと至った経緯を紹介する.あわせて,本集会に参加する多様な分野の研究者との議論を通じて,非モデル生物を対象としたゲノムサイズ進化研究の展望について議論したい.