| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
自由集会 W33-4 (Workshop)
代替交尾戦術(alternative mating tactics, AMTs)は, 多くの動物で報告されている繁殖戦略であり, 個体の状態や社会環境に応じて柔軟に選択される条件付き戦略として理解されている。近年、AMTsを選択するにあたっての意志決定に影響を与える要因として、特に温度や湿度など環境要因との関連性が注目を集めている。シリアゲムシ科昆虫は, 婚姻贈呈用の餌を巡る雄間闘争を頻繁に行い, 雄間闘争に敗北した雄は条件に応じて複数の代替交尾戦術を選択することが知られるが, これらの戦術選択が地理的環境勾配や遺伝系統とどのように関係しているのかについては十分に検証されていない。ヤマトシリアゲ Mavropanorpa japonica では, 婚姻贈呈を巡る闘争に敗北したオスはまず争った餌場から「居座る」か「立ち去る」かを選択し、居座った個体は次にRobbingと Sneakingの2つのAMTsから一つを選択するという階層的な行動決定構造を有する。発表者は、ヤマトシリアゲの異なる2つの個体群間で採用されるAMTsの比率が異なることを確認している。本研究では, 日本列島の複数地域個体群を対象として, 敗北オスによる代替戦術選択と緯度, 個体群密度, 性比、そして分子系統との関係を解析した。その結果, 敗北直後の「居座り/立ち去り」という初期の意思決定は, 緯度および個体群密度の影響を受ける一方で, 居座りを選択した後のRobbingとSneakingの選択は, 主として性比に依存していた。これらの結果は, AMTsの選択が単一の要因によって規定されるのではなく, 行動段階に応じて異なる空間スケールの環境要因が作用する多層的な意思決定プロセスであることを示唆している。以上の結果と、ミトコンドリア及び核遺伝子領域を用いた分子系統解析による遺伝系統関係の結果も併せて議論する。