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一般講演 A1-01

用排兼用型水路−水田間の魚類の移動について

*皆川明子,千賀裕太郎(東京農工大学)

水田は一部の淡水魚にとって繁殖・生育の場であることが知られているが、圃場整備により生物の生息が困難な環境へと変わってきた。魚類の生息に配慮し、主に排水路に生態系配慮型の整備が行われているが、用排分離される前の水口・水尻ともに双方向移動可能な水田水域における魚類の移動実態は明らかにされていない。

2003・2005年の6〜9月(灌漑全期間)、2006年の6月〜中干しまで、東京都国立市を流れる府中用水の受益水田を対象に調査を行った。水田の水口・水尻に小型定置網(網目2mm)を設置し、水路−水田間を移動する魚類の全数採捕に努めた。

多く採捕されたのはドジョウ、タモロコ、フナ属であった。灌漑初期に水口からも水尻からもこれらの成魚が水田に進入し、水尻に落差を伴い水尻から溯上できない水田でも、水口から進入した成魚により繁殖が行われた。また、6月下旬から7月にかけて未成魚以下の個体が水口からも水尻からも多数進入したことから、用排兼用型の水路−未整備水田間では、その水田で孵化した個体だけでなく、水路で生まれた個体や、一度水田から出て再び水田に進入する個体など多くの個体が水田の良好な生育環境を享受できると考えられた。

脱出では、中干しや落水など水田水深が低下するときに多くの個体が脱出するほか、水田水深の低下や降雨などの環境条件の変化がなくとも取水後20〜40日にかけて分散と考えられる当歳魚の連続的な脱出が見られた。取水後40日間に脱出した当歳魚の平均体長は、ドジョウでは33.8±8.1mm、タモロコでは21.0±4.3mmであり、体長15mm未満の小さい個体はほとんど脱出しなかった。また、ドジョウは水尻から脱出する個体が多く、タモロコはほとんどが水口から脱出したことから、用排兼用型水路では水口に向かう遊泳魚の自然な分散が容易であると考えられた。

日本生態学会