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一般講演 A1-02

遺伝マーカーを用いた農業水路に生息するドジョウの個体群構造の推定−多摩川流域を事例として−

*西田一也,佐藤俊幸,千賀裕太郎,小原嘉明(東京農工大学)

水田や農業水路は河川の後背湿地を代替しており,ドジョウやフナ属といった魚類の生息環境であることが指摘されている(守山,1997).しかしその生息環境は,農村地域では大規模な圃場整備によって,都市近郊地域では水田の減少に伴って劣化しつつあり,ドジョウでさえ西日本を中心とした12府県において絶滅危惧種に指定されている.

多摩川流域の農業水路に生息し,水田等の一時的水域で繁殖するドジョウ等の魚類の分布は,水田付近に局所化しており(西田・千賀,2004),冬季には個体数が激減することから,河川や他の農業水路に存在する他の個体群からの供給が個体群の維持に関係していると考えられた(西田ら,2006).

そこで本研究は遺伝マーカーを用い,農業水路に生息し水田等の一時的水域で繁殖する魚類の代表種であるドジョウについて,多摩川流域における遺伝的構造と移出入の状況を推定することを試みた.流域内の農業水路の水田付近および取水・排水河川のワンドや合流点においてサンプリングを行い,計34の個体群からサンプルを得た.各個体群で採捕されたドジョウのうち10個体ずつについて,AFLP法によって得られたDNAバンドパターンを元にHickory v1.0によって遺伝的分化度および遺伝的多様度を算出し,それらと各個体群の位置や分断との関係をみた.

その結果,分断化された個体群を除けば遺伝的分化度と地理的な距離に正の相関があり(R2=0.125,P<0.01),近隣の個体群同士には分化度が低いものがあることから、メタ個体群構造をなしていると考えられた.また,上流と下流に個体群間の距離が離れていても正の相関を示し,かつ決定係数が高くなること(R2=0.219),遺伝的多様度は下流の個体群ほど高い値を示すことから遺伝子流動(個体の移出入)は上流から下流の個体群に向かって起こっていると推察された.

日本生態学会