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一般講演 A1-08

芦別山塊におけるナキウサギの生息地分布とその保全について

小島望(川口短大)

北海道に生息するエゾナキウサギOchotona hyperborea yesoensis(以下,ナキウサギと略)は,地理的な分布状況から,夕張・芦別山系,日高山系,北見山地・大雪山系の3つの個体群に分けられる.とりわけ,夕張岳と芦別岳を含む夕張・芦別山系の個体群は,他の2個体群とは完全に孤立している孤立個体群であり,生息数が極めて少ないとされている.そのため,夕張・芦別山系の個体群は,環境庁のレッド・データブック,および北海道レッドデータリストにおいて「絶滅のおそれのある地域個体群(Lp)」に指定されている.

演者は,2002年〜2006年にかけて,芦別岳一帯におけるナキウサギ個体群の生息状況及び生息分布について調査を行なった.その結果,既存調査でナキウサギが生息しているとされていた場所では生息痕跡や姿が確認できず,生息情報のなかった場所での生息が新たに確認できた.つまり,これまで芦別岳一帯で行なわれてきたナキウサギについての既存調査は,全くと言っていいほど生息状況および生息分布を把握していなかったことがわかった.

以上の芦別岳一帯の調査結果と,2000年に著者らが行なった夕張岳一帯で行なった調査結果と併せて考えると,これまで連続したひとまとまりの個体群と考えられてきた両個体群は,遺伝子交流のない,互いに孤立した個体群である可能性が高い.このようなことから,環境省は「絶滅のおそれのある地域個体群(Lp)」を夕張山塊と芦別山塊の2つに区別して指定し直すことを考える必要がある.

日本生態学会