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一般講演 A1-09

奄美大島におけるアマミノクロウサギの生息域の後退:エコロジカルトラップ概念は当てはまるか?

*杉村乾(森林総研),小高信彦(森林総研・九州)

奄美大島、徳之島のみに生息するアマミノクロウサギについては、糞粒のルートセンサスによるモニタリング調査が奄美大島で断続的に行われてきたが、とくに人口の大半が集中する名瀬市の近辺で分布域の後退と生息数の減少が顕著である。1985-86年の調査では林道で多くの糞粒がカウントされた(平均51個/km/day)が、名瀬市に近い区域ではマングースが分布域と生息数を拡大する以前から糞粒が少なかった(37個/km/day)。1989-90年調査ではマングース侵入域外も含めて激減し(0.2個/km/day)、1992年以降は多くの区域でカウントされなくなった。その後は林道から消えても沢沿いでカウントされた(4.3個/km/day)が、2000年以降はカウントされなくなった。

このことについて、動物が好適なハビタットよりも適性の低いハビタットを好むことがあるというエコロジカルトラップの概念を既往のデータに当てはめ、その適用性について検討してみた。まず、林道へ誘引する要因として、糞場や餌場としての利用度の高さが上げられる。他方、アマミノクロウサギの生息密度が高い区域でノイヌによる捕食率が高いこと、名瀬市近辺で林道上の糞が沢に比べて相対的に少なく、名瀬市から遠ざかるほど多くなる傾向があることなどから、マイナス要因として林道での捕食圧が裏付けられた。また、名瀬市から遠い区域ではマングース侵入後も林道での糞の減少があまり見られないこと、林道の糞数の減少に呼応して沢沿いの糞数も減少する傾向が確かめられた。これらのことから、捕食圧の高い林道に誘引されるためにその区域が低密度に保たれてきたところへマングースが林内へも高密度で侵入した結果、地域個体群が絶滅したという定性的な説明が可能である。今後はアマミノクロウサギ個体群動態の研究を進め、定量的モデルを構築して検証を行う必要がある。

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