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一般講演 A3-01

環境要因がフナの活動余地量に及ぼす影響:生息場所環境評価への基礎研究

*山中裕樹(京大・生態研), 神松幸弘(地球研), 遊磨正秀(龍谷大・理工)

湖沼に生息する多くの魚類にとって、沿岸部の水生植物帯は仔稚魚期の採餌場所、逃避場所として不可欠な生息場所である。沿岸環境の改変による水生植物帯の減少、魚食性侵入魚の影響からこれら仔稚魚を保護するための基礎として、魚類生理学的視点から水生植物帯の環境評価を行った。モデルとして琵琶湖沿岸部の水生植物帯と、在来魚であるニゴロブナの仔稚魚、そして侵入魚であるオオクチバスの系を扱った。水生植物帯内は貧酸素環境にあったため、ニゴロブナとオオクチバスの貧酸素耐性を測定して比較を行った。結果、より貧酸素耐性が高いニゴロブナ仔稚魚にとって生理的な逃避場所として機能しうることが明らかになった。次にニゴロブナ仔稚魚の活動余地量(遊泳・摂餌・消化などに利用できる好気的エネルギーの総量)を水温・溶存酸素濃度・体重の関数としてモデル化し、水生植物帯内の環境条件下で得られる活動余地量を推定した。この値を指標として生息場所の質を評価した結果、水生植物帯内の生息場所としての質は春から夏にかけて急激に低下し、ニゴロブナの貧酸素耐性が高いとはいえ、水生植物帯内が生育に適した環境であるとは言い難いことが明らかになった。

琵琶湖においては6月以降の人為的な水位低下によって多くのコイ科魚類の産卵場所である水生植物帯干上がってしまうことが指摘されている。しかし、魚類にとって最もクリティカルな時期である仔稚魚期の生息場所としての質の評価はなされてこなかった。発表ではこれまで得られた結果を元に、既存の水生植物帯の維持管理や昨今行われている水生植物帯の新規造成の手法などについて生息場所の質という観点から議論を行う。

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