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一般講演 B1-12

クワ科植物の多様な乳液成分が被食防衛に果たす役割

*今野浩太郎(農業生物資源研),小野裕嗣(食総研),中村匡利,立石剣,和佐野直也,平山力,田村泰盛,服部誠,小山朗夫(農業生物資源研),河野勝行(国研センター沖縄・現野茶研)

クワ科植物は葉の傷口から乳液を分泌する。演者らは以前、沖縄産の野生イチジク属植物ハマイヌビワの葉が鱗翅目幼虫に対して顕著な毒性を示し、乳液と乳液に含まれるシステインプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が毒性の原因であり、この植物の被植防衛で重要な役割を担うことを発見した。そこで今回は他のクワ科植物でも同様な現象が存在するか、他のクワ科植物の乳液の昆虫に対する毒性と乳液成分を調べた。その結果、クワ科植物の乳液が共通して被食防衛を担う一方で、乳液成分自体は種間で非常に多様であることが判明した。例えば、同じイチジク属植物種のオオバイヌビワやギランイヌビワではハマイヌビワ同様に乳液が被食防衛に重要な役割を果たすが、ハマイヌビワ乳液の昆虫毒性成分のシステインプロテアーゼ活性はオオバ・ギランイヌビワ乳液からは全く検出されなかった。また、カイコの餌であるクワでも乳液が顕著な毒性を持ちクワ葉がカイコ以外の昆虫に対して示す顕著な毒性の原因であることが判明した。沖縄や本土の野生クワ系統では1,4-dideoxy-1,4-imino-D-arabinitolや1-deoxynojirimycinなどの糖類似アルカロイド(糖代謝関連酵素阻害剤)が乳液中に2.5%(乳液乾物当たりでは18%)の高濃度で含まれ鱗翅目幼虫に対し毒性を示し、クワの被食防衛において主要な役割を担っていた。カイコは高濃度の糖類似アルカロイドでも全く悪影響を受けず何らかの生理的適応機構の存在が示唆された。今回発見された、クワ科植物の乳液成分に見られる顕著な種間多様性は、乳液成分が被食防衛を含む生物間相互作用との関連で発達したことを示唆するものであろう。

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