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一般講演 D1-08

タイ北部の熱帯季節林におけるShorea obtusa落葉の分解過程

*大園享司, 武田博清(京大・農・森林生態), Dusit Seramethakun(Naresuan University Phayao Campus, Thailand)

温帯林土壌における落葉分解では、一般にリグニンよりもセルロースが選択的に分解されること、この過程で窒素の不動化が認められることがわかっている。一方で熱帯林における落葉分解の一般的な特徴としては、分解が温帯林よりも約2倍速いことに加え、リグニンが選択的に分解されること、窒素がすみやかに無機化されることなどが挙げられる。このように分解パターンが熱帯林と温帯林とで異なる理由として、環境条件や分解者生物の違いなどが指摘されているが、熱帯林における分解過程を、リグニンやセルロースの分解に関わる菌類の役割に注目して調べた例は少ない。本研究では、タイ北部の熱帯季節林で優占するShorea obtusaの落葉を材料として、その初期分解過程をリターバッグ法により、リグニン分解菌の定着にともなって出現する漂白に注目して9ヶ月間にわたって調べた。9ヶ月目における落葉の重量残存率は初期重量の57%であった。落葉に含まれる菌糸量は分解5ヶ月目に4000 m/gに達したが、9ヶ月目には2500 m/gに減少した。残存落葉面積に占める漂白面積の割合は1ヶ月目には1%であったが、分解にともなって増加し9ヶ月目には30%に達した。漂白部ではリグニンとホロセルロースが等比率で分解されており、窒素の純無機化が認められた。その一方で、非漂白部ではリグニンよりもホロセルロースが選択的に分解され、窒素の不動化が認められた。以上の結果から、熱帯林においても、漂白を受けていない部分では温帯と類似した分解パターンが認められるといえる。またS. obtusa落葉では漂白部の占める面積割合が温帯林に比べて高いことが、落葉全体でのリグニン分解の促進に寄与しているといえる。

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