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一般講演 D1-10

根を含む樹木個体呼吸のユニバーサルスケーリング

森茂太(森林総研東北)

長年、Metabolic scaling論争は盛んで、Functional Ecology(2004)、Ecology(2004)に特集号が組まれ、Nature, Science誌も頻繁に扱っている。現在、「数理モデル」を基に、個体呼吸Rと個体重Wの間には、「R=W^a, (a=3/4)」が成立するとされ(West et al., Science, 1997, Enquist et al., Nature, 1998, 1999)、生態/環境分野でISI引用数No.1(2005)を誇る。これに対し、Reich(Nature,2006)は樹体一部の測定から個体呼吸を計算し、さらに高い「a」を「推定」したが、Enquistはすぐさま反論し(Nature, 2007)、多研究者間で論争は激化している。しかし、従来の小さな個体サイズ幅、サンプル数では、両対数軸上の微妙な傾きで表現される「a」の確定は困難との指摘(Bokuma, 2004; Farrell-Gray & Gotelli, 2005)もあり、さらに、大個体の根を含む樹体全体の実測例は無い。

我々は従来測定がほぼ不可能な極小実生(2〜5mg)から巨木(胸高直径70cm、樹高30m)に至る連続した個体サイズの「根を含む全樹体の個体呼吸」の新測定法を開発した。従来(Mori & Hagihara 1988, 1991, Mori et al. 2000)に比べ、測定効率、精度は向上し、その結果、従来より飛躍的に大きな個体数(数百)、個体サイズレンジ(生重量で約10億倍)、樹齢幅(1-240年生)で全樹体個体呼吸を「実測」できた。試験地は、北極圏〜赤道のすべての森林植物帯である。その結果、「Enquistモデル」や「Reich推定」とは異なる新たな「一般的関係」を見いだし、この「関係」には数理モデルを基にした生物学的合理性もあると考えた。

日本生態学会