| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 D1-13

都市〜山地の森林における鳥類排泄物の安定同位体比を用いた食性解析

*藤田素子,小池文人(横浜国大院・環境情報)

大型動物が,異なるランドスケープ間で栄養塩類を運搬していることが,近年知られるようになった.筆者らのこれまでの研究から,森林に加入する鳥類排泄物由来の窒素・リンの量は,都市のほうが山地よりも多いことが明らかになった.調査地点は同じように森林であっても,周辺が森林であれば加入量が少ないが,周辺が市街地であれば加入量が多い.このことは,鳥類による都市での市街地から森林への窒素・リンの運搬を示唆する.しかし,より直接的な証拠を得るためには鳥類が何を採餌しているかを判断する必要がある.排泄物は未消化物を多く含み餌生物の化学的性質を反映していると考えられるため,横浜市街から丹沢山地に至る環境傾度で森林内の鳥類排泄物のC, N, P%と窒素・炭素安定同位体比を測定した.カラス類のねぐら以外の場所では,山地では繁殖期・越冬期ともにNP%が高い排泄物が多く,年間を通じ昆虫食であった.一方都市では繁殖期にはNP%がやや高いが,越冬期にはC%が非常に高くなり,越冬期には極端な植物食(主に果実)に偏っていることが分かった.ただし果実が林内のものか住宅街に由来するものかは区別できなかった.また,栄養塩加入で大部分を占めるカラス類のねぐらで採集した排泄物は,NP%だけではなくδ13Cやδ15Nが高い値を持ち,両生・爬虫類や哺乳類など栄養段階が高次の生物を採餌している可能性が示唆された.カラス類に関しては住宅地でゴミを採餌するのが知られているが,それを支持する結果となった.郊外の牧場の近くのカラス類のねぐらでは特にδ13Cが高く,トウモロコシなどC4植物を含む家畜飼料を多く採餌して森林に運搬していた.

日本生態学会