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一般講演 D3-01

ブナヒメシンクイの食害に適応したブナ種子の発達経過

*鎌田直人(東大演習林), 小谷二郎(石川林試), 澤田晴雄(東大演習林)

ブナヒメシンクイを主とする昆虫の食害が、ブナ・イヌブナの種子の発達過程における中絶の主な原因のひとつである。本講演では、両樹種について雌花由来器官の熱量を測定することによって、両樹種の繁殖器官への投資の季節変化パターンを明らかにした。その結果をもとに、資源投資の観点から昆虫の食害に対する植物の適応についてブナとイヌブナで比較し、考察を行った。

ブナの雌花由来器官は、開花後1ヶ月の間に重量が急激に発育した。単位重量あたりの熱量は、7月までは葉と差が見られないが、8月中旬以降急激に増加した。その結果、雌花由来器官の総熱量には、開花後と8月中旬以降の2回の増加期が認められた。これら2回の増加期の間にはほとんど増加しなかった(「停滞期」)。凶作の年のブナヒメシンクイの食害は、この「停滞期」の間にほとんど終了する。したがって、ブナヒメシンクイに食害されるものの投資量は、熱量レベルで充実種子の約40%と推定された。この投資量は、受精が失敗してできるシイナへの投資量とほぼ同等であった。虫害は停滞期までに食害されるものが大部分であることから、ブナの投資パターンは虫害による損失をうまく回避するように適応しているものと考えられた。

一方、ブナに比べるとイヌブナは重量増加も初期生長が緩やかで、8月以降に重量・熱量ともに急激に増加した。ブナヒメシンクイに食害されるものへの投資量は、イヌブナの場合、熱量レベルで充実種子の約20%と推定された。同所的に生育するブナに比べイヌブナでは、食害率自体も低く、この原因は初期のサイズ生長が遅いことが関係しているものと推測されている。これらの結果から、虫害による損失を回避する点で、ブナに比べるとイヌブナはより適応的であると考えられた。

日本生態学会