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一般講演 D3-03

野生ドリアンの更新にオランウータンが与える影響

*中島啓裕,北山兼弘(京大生態研センター)

種子は、植物が高いコストをかけて生産する繁殖器官であり、種子段階における死亡、生存は、直接的にその植物の適応度の増減につながりうる。本研究では、マレーシア・サバ州において、棘のある硬い果皮を持つ大型種子植物Durio graveolensを対象に、散布前、散布後の種子捕食が、本種の更新過程にどの程度、影響を与えているかを明らかにすることを試みた。まず、2005年と2006年、散布前の種子の捕食圧を定量的に明らかにするために、結実木での直接観察を行った。直接観察では、どの程度の数の種子が、どのような動物によって、捕食あるいは散布されるかを記録した。次に、直接観察の結果明らかにされた種子散布者がもたらすと想定されるシードレインの下で、種子の追跡を行い、散布後の種子捕食圧を明らかにした。さらに、実生を3年間追跡し、種子捕食による死亡の相対的な重要性を明らかにしようと試みた。

直接観察の結果、ほとんどの果実は、オランウータンによって消費されることが明らかにされた。オランウータンに消費されなかった果実は、クロサイチョウとカニクイザルによって散布された。オランウータンの種子の扱いは結実木間で異なっており、種子の扱いを確認できた13結実木の内、11結実木で種子は捕食され、2結実木で親木の真下に落された。すなわち、散布前の種子の捕食圧は、オランウータンの種子の扱いによって大きく変わった。散布後の種子の捕食圧は、どのシードレイン間でも極めて高く、1ヵ月後の生残率は、数パーセントに過ぎなかった。一方、実生の3年間の生残率は高く、追跡した177個体の実生の内、126個体が生存していた(生残率71.2%)。これらのことから、散布前、散布後の種子の捕食が本種の個体群の増大を大きく制限していると考えられた。

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