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一般講演 F1-06

何故、分散前に交尾するのか?

廣田忠雄(山形大・理・生物)

生得的な分散の進化を説明する理論は複数あるが、いずれも分散者は移出後に交尾すると過程されている。分散がメスに偏っている昆虫の中には、雌雄ともに分散前に交尾するものがいる。これは、近親交配の回避を主要因とするモデルでは説明できない。そこで、分散前交尾を仮定したモデルを新たに構築し解析した。その結果、メスの分散前交尾と大きな環境変動が、メス特異的な分散の進化に十分な条件であることが分かった。メスは変動リスクを避けるために分散するが、オスは交尾相手に自分の子孫を分散してもらえるので、自ら分散する必要がなかった(Hirota 2004)。

ただし、メスが複数回交尾する種も少なくない。メスが分散後に再交尾する場合、オスのリスクはあまり分散されず、性差は生じにくいかもしれない。そこで、この点を考慮したモデルで再解析してみると、再交尾のタイミングと精子優先が、分散の性差に重要なことが分かった。再交尾が分散直後に起こり、メスが最後に得たオスの精子ばかり用いる場合、性差は進化しなかった。しかし、再交尾が分散と同期していないか、再交尾後も前のオスの精子をある程度利用するケースでは、やはりメス特異的な分散が進化した(Hirota 2005)。加えて、分散行動が個体群密度や性比などの局所的な条件で可塑的に変化する場合も、同様の現象が生じた(Hirota 2007)。

更により現実的な条件として、個体は遺伝的に決まっている資源探索範囲の中であれば、複数のパッチを利用できるモデルを構築した。分散のコストとして、各資源を獲得する競争力は資源探索面積に反比例する仮定とした。その結果、資源が集中分布して変動が激しい場合、メスの探索範囲がより大きくなることが分かった。また強い近交弱勢は、環境変動が乏しい場合にも探索面積を広げる効果が見られた。今回はこのモデルを改訂し、メスが交尾前に分散する条件を解析した。

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