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一般講演 G1-02

陸域と海をつなぐ地下水のはたらきと沿岸域の景観区分

菊池 亜希良(広島大・院・国際協力)

最近,沿岸域における地下水の挙動が注目されるようになり,陸域と海域をつなぐ様々な研究が地形,水文,生物といった方面から進められている.しかし個々の研究がどのように関連しているかなど環境の成り立ちに関する全体像は必ずしもはっきりしていない.その原因として,沿岸域の水文地形を説明する地形区分が存在しないことが挙げられる.そこで本研究では沿岸域の環境を仮説的に区分することを試みた.調査地は,瀬戸内海の中でも最も自然度の高い海岸が残る山口県上関町長島の田ノ浦とした.現地調査では,海岸から沖に向けて100mの調査ラインを設置し,海水を採取すると共に合計5箇所から塩ビ管を用いて海底の地下水(地下30cm)を採取した.水サンプルの水質は,EC,ORP,水温,全溶存リン(無機態リン+有機態リン)を測定した.既往研究の整理と調査の結果,沿岸環境は,陸域(a)と海域海底(e)の間の環境として6つの環境に区分された.b)海岸後背地:満潮時の海岸に形成される地下水の尾根の背面(海岸後背地)に浸入した海水が地下で汽水を形成する領域,c1)潮間帯上部:満潮時に海水が浸入する領域,c2)潮間帯下部:浸透した海水が殆どそのままの水質で干潮時に浸出する領域,d1)漸深帯上部:海岸後背地を起源として汽水が湧出する領域,d2)淡水レンズの上部:陸側から動きのある地下水が延展する領域,d3)淡水レンズの下部:地下水に及ぼす陸域からの影響が衰退し動きの小さな海底地下水が存在する領域.これらの中でd1とd3の地下水のリン濃度は極めて高く,沿岸域の地下で行われる淡水と海水の混合の影響が栄養性に発言していることが確認できた.今後は,この区分に基づいて複数の地域で沿岸地域の自然現象の規模,頻度,時間変化を含んだ生態-水文現象の研究を進め,沿岸地域の景観区分に修正して行きたい.

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