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一般講演 G1-03

徳島県における湿生絶滅危惧植物の潜在的生育域類型と環境特性

*原田悦子(徳島大院・工学研究科),小川誠(徳島県立博物館),三橋弘宗(兵庫県立人と自然の博物館),鎌田(徳島大学)

希少な生物の潜在的分布域を推定することは,未調査域を含む広域的な保全策の立案に非常に有効である。種の潜在的分布域の推定は,既存の分布情報から,種が分布しうる条件を普遍的な環境要因を用いて科学的に証明することである。その際,まず広域的スケールにおいて分布可能な環境要因を抽出し,その条件を満たす地域内においてさらに分布を制限する要因を明らかにする,スケールダウン的手法は,スケールごとに着目すべき環境条件を明らかにすることができ,広域的な保全計画に合理的に対応できる。

今回は,徳島県全域を範囲として,75種の湿生・水生希少植物の潜在的分布域を明らかにした後,水文的な観点から内部構造を比較し,どのような環境特性が,水環境に依存した希少種にとって重要であるかを検討した。

対象種を分布パターンの類似によって,3種以上の種を含む種群は7つに分類された。各種群の潜在的分布域は異なった地域性を示した。さらに,それぞれの種群の潜在的分布域に含まれる湿生・水生植物のハビタットの形状の特徴は,複雑な形の小〜中規模のハビタットが複数近接して存在するパターン,単純な形状の大規模なハビタットが単独で存在するパターンの2つに大別できた。また,前者よりも後者のハビタットにおけるTWIの平均値が有意に大きく,平均傾斜角度も際立って小さかった。前者のハビタット構造には,細かい谷とそこから流れ出す水を受け止める平地が,後者は,流路が固定されず水が平面的に広がる傾斜の小さな広い平地が重要であることが示唆された。湿生・水生希少植物の分布は,このような地域の地形的・水文的特徴に,種の生態的特性が対応した結果であり,保全計画上はそれを十分に考慮する必要がある。

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