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一般講演 H3-02

エゾシカの爆発的増加:2地域の比較

*梶光一(東京農工大・農),高橋裕史(森林総研・関西),岡田秀明(知床財団),小平真佐夫(知床財団),山中正実(知床財団)

大型草食獣の生態と管理における最も有力なパラダイムは、新天地への導入あるいは狩猟からの開放によって、大型草食獣が急増してピークに達した後に群が崩壊し、環境収容力の低下により、ピーク時よりも低い密度で安定することである。しかし、このパラダイムを支える証拠は乏しく逸話にとどまっている。我々は北海道洞爺湖中島の導入個体群と知床岬へ自然に再定着した個体群を対象に、20年以上におよぶ個体群と生息地の長期モニタリングを実施し、「爆発的増加モデル」の検証の基盤を築いてきた。両個体群とも導入後あるいは自然定着後に、爆発的な増加(年率16%〜20%)とその後の崩壊が生じ、植生へ強い影響を与え、「爆発的増加モデル」の予測を支持した。しかし群の崩壊後に両個体群の挙動は大きく異なり、中島個体群では初回の爆発的増加に比較し、より低い増加率で増加してより高いピークに達したのに対し、知床岬個体群は崩壊と回復を繰り返し、ピークの著しい低下はみられなかった。このようにいずれの個体群とも爆発的増加モデルを支持しなかった。中島個体群では初産年齢の上昇、子連れ率の低下、発育成長と角の成長の遅滞が生じたのに対し、知床岬個体群では、高い妊娠率と子連れ率、良好な角の成長で特徴付けられた。また大量死亡時には、中島個体群では各年齢クラスの雌雄で生じるのに対し、知床岬個体群では子とオスに偏り、メスの死亡はほとんどなかった。以上から、夏の生息地の質が体サイズと繁殖に強い影響を与え、密度依存的な資源制限と冬季の気象の組み合わせが個体数サイズを決定することが想定された。

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