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一般講演 H3-03

食物環境の年次変動が競合を介してニホンザルの個体群パラメータに及ぼす影響

*辻大和(東大・院農), 高槻成紀(東大・博物館)

動物の順位クラスの違いは競合の際に採食成功に差をもたらし、その違いは栄養状態、さらには個体群パラメータ(出産率、新生児死亡率)にも影響する。ニホンザルの主要食物である堅果類の結実には年次的な変動があるため、結実の豊凶はサルの順位クラス間の競合に影響し、それは栄養状態や個体群パラメータにも反映されると予想される。

宮城県金華山島のニホンザルを対象に、2004 / 2005年と2005 / 2006年で1)食物を巡る競合、2)採食成功への影響、3)個体群パラメータへの影響を順位クラス間(高・中・低の3クラス)で比較した。2004年の交尾期には生育本数が少なく樹冠面積が小さいカヤが、そして2005年の交尾期には生育本数が多く樹冠面積の大きいブナが多く結実し、両年の食物環境は大きく異なった。2004年(カヤ年)の交尾期は2005年(ブナ年)の交尾期に比べて攻撃的な行動の発生頻度が高く、エネルギー摂取量の順位クラス間の差が顕著で、低順位クラスのエネルギー摂取量は低かった。出産率は高順位クラスで高く(43%)、中・低順位クラスで低かった(0-11%)。また、新生児死亡率は高順位クラスで低く(33%)、中・低順位クラスで高かった(50%)。対照的に、ブナ年には採食成功に順位クラス間の差はみられず、また出産率(いずれのクラスも70%)や新生児死亡率 (いずれのクラスも40%)にもクラス間の差は見られなかった。

これらの結果は、ニホンザルの順位クラスが交尾期の採食成功に強い影響を与え、それが栄養状態を通じて個体群パラメータに影響する可能性を強く示唆する。それゆえ、ニホンザルの個体群動態を考える上では結実の豊凶が個体群全体におよぼす平均的な影響ではなく、順位クラスごとの影響の違いを考慮しなければならない。

日本生態学会