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一般講演 H3-06

有明海および八代海における危急種シカメガキの遺伝学的解析

*荒西太士,飯塚祐輔(宮崎大・農)

有明海固有種のシカメガキCrassostrea sikameaは,殻周縁部の襞状が明瞭で老成しても殻長が4cm程度の小型カキとされており,生理生態学的特徴から有明海に同所的に分布するマガキC. gigasやスミノエガキC. ariakensisと識別できるとして,1928年に新種記載された.その後,マガキのシノニムとする報告もあり分類が混乱していたが,現在では分子系統学的にも独立種であるとされている.一般に,Crassostrea属カキ類の分布域は広いが,本種の分布は有明海に局所的である上,個体数も激減しているため,1994年には熊本県により危急種に指定されている.本研究では,これまでの度重なる生態調査でも分布が確認されなかった熊本県宇土半島以南の八代海において本種の出現を記録した.2006年5月に八代海湾奥の河口潮間帯6地点から小型カキ163個体を採集し,シカメガキと形態分類された28個体を遺伝学的に判別した.ミトコンドリアDNAの16SrRNA遺伝子部分領域を対象として,カキ類共通プライマーとシカメガキ特異的プライマーを併用した多重PCR法で一次選抜した後,カキ類共通プライマーのみを使用したPCR-RFLP法で確認した結果,28個体中18個体がシカメガキと判別された.そこで,八代海北東岸の鏡川河口42個体および2006年2月に有明海南東岸の緑川河口から採集した小型カキ41個体を比較解析した結果,それぞれ31個体と41個体がシカメガキと判別された.シカメガキと判別された個体のほとんどは襞状殻周縁という本種特有の形態的特徴を示していたが,一方,八代海グループは有明海グループに比べて大きく殻長が6cm程度の中型カキも含まれており,本種の形態的分類基準および分布域を再定義する必要性が示唆された.

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