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一般講演 P1-032

鏡像体の生存率は適応進化するか

*宇津野宏樹(信州大・理),浅見崇比呂(信州大・理)

動物界全体で鏡像体は進化していないが、例外的に、巻貝ではごく少数の鏡像種が進化した。これまでに筆者らは、鏡像体が正常には発生できないことを示し、鏡像種の進化に対する発生拘束を立証した。では、巻貝に実在する鏡像種は、左右反転にともなう異常(発生拘束)を回避して進化したのだろうか。右巻種のオナジマイマイで見つかった突然変異のホモ接合体は、右巻と左巻の子供を同時に産む。遺伝的に同一でも、平均して左巻の孵化率は右巻より低く、鏡像体に対する発生拘束が存在する。しかし、左巻の孵化率は分散が大きく、親によっては右巻と左巻の孵化率に差がないこともある。もし、左巻の孵化率に相加遺伝分散があるなら、自然淘汰により正常な左巻が進化しうることになる。産卵時の右巻と左巻の割合は約1:1なので、孵化した右巻と左巻の比率から、右巻に対する左巻の相対的な孵化率が計算できる。そこで、左巻の相対孵化率の相加遺伝分散を調べた。その結果、左巻の相対孵化率は約0.9の遺伝率を示した。これは右巻と左巻に共通の孵化率ではなく、左巻の正常発生率に著しく大きな相加遺伝分散が実在することを示している。巻貝では右巻と左巻の交配が難しいため、近縁種と交雑できない逆巻変異が有利になることもあると考えられている。本結果は、たとえばそのような状況で、発生拘束を乗り越え、鏡像体が適応進化しうる遺伝的基盤を立証している。

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