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一般講演 P1-054

琵琶湖沿岸食物網の基礎生産構造-ベントスの安定同位体比からわかること-

*苅部甚一,武山智博,酒井陽一郎,奥田昇,陀安一郎(京大・生態研)

湖沼沿岸域の環境異質性は沖合域に比べ高く、沿岸には多様な生物が生息すると考えられている。その一方で、沿岸域は人間活動の影響を受けやすく、生息環境が急激に変化しやすい場所でもある。現在、人為撹乱下にある沿岸生態系の機能の維持・保全・再生を図ることは急務の課題となっている。そこで、本研究は人為撹乱度と流域規模の異なる河川を多数有する琵琶湖沿岸生態系を調査対象として、その食物網構造の空間異質性を安定同位体分析により解析することを目的とした。さらに、この解析を通して沿岸生態系に与える人為影響を定量的に評価することを試みた。

2005年11月に33地点で定量的な生物採集調査(プランクトン・付着藻類・ベントス・魚類など)を行った。調査地点には、琵琶湖沿岸域の流域規模や人口密度の異なる河川の流入域沿岸29地点と流入河川のない沿岸4地点を選んだ。本発表では、食物網の基礎生産構造の指標生物として一次消費者である濾過摂食者の二枚貝と腐植食者の巻貝に着目する。

始めに、二枚貝と巻貝の個体数および現存量を流入河川がある地点と流入河川がない地点で比較した。次に、二枚貝と巻貝の炭素安定同位体比から基礎生産構造の外来性有機物依存度の地点間による違いを調べた。その結果、地点間で炭素安定同位体比に違いが見られた。流入河川がある地点では、流入河川がない地点に比べ基礎生産構造の外来性有機物依存度は高くなり、基礎生産構造に変化が起ると考えられる。すなわち、この2種類のベントスの個体数および現存量に加えて安定同位体比を比較することで、流入河川からの外来性有機物が基礎生産構造に与える影響を知ることができる。今回の発表では、このアプローチで見えてくる基礎生産構造を概観してみたい。

日本生態学会