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一般講演 P1-055

ヤクシカの個体群動態と生息地管理

*立澤史郎(北大・文・地域), 高橋裕史(森林総研・関西), 松田裕之(横国大・環境情報), 常田邦彦(自然環境研究センター)

屋久島では、ニホンジカ(ヤクシカ)の採食による自然植生の改変と農作物被害が問題となっているが、これまでヤクシカの分布状況や個体群密度の変動は把握されていなかった。このため、2004-6年に全島を対象としたスポットライトカウント調査、捕獲個体解析、聞き取り調査を行い、本個体群の過去の動態について考察した。なお1994-6年の調査結果も用いた。スポットライトカウント調査は全島の低標高域から高標高域に及ぶ林道約20本で1994年夏(総延長202.9km)と1995年夏(総延長252.9km)に3回づつ行い、1995年調査と同一ルートで2.5倍以上の目撃数(1994年2.64倍、1995年2.82倍)を得た。分布域は1990年代にはほとんど目撃がなかった低標高域に向けて拡大すると共に、ほとんどの区画で目撃数が増加した。区画毎の性比については、1994-6年には雌雄の分布に偏りが見られたが、今回は偏りが見られなかった。この性による分布の偏りは高密度化すると弱まることが知られる。さらに、有害捕獲個体の妊娠率を見ると、1990年代(89%)と2000年代(89%)で違いが見られず、密度効果による妊娠率の低下は認められなかった。また、1960年代まで全島的に分布した捕獲地点は、1990年代にも中高標高部に分布していたが、国有林内での捕獲ができなくなった1997年以降は低標高部の民有林(国有林と農地の狭い地域)に集中し、分布中心と目される中低標高部国有林での捕獲は行われていなかった。これらから、ヤクシカの増加は、戦後の全島的な伐採と植林による食物量の増加に加え、その後の低標高部への分布拡大(餌場としての農地の確保)と分布中心周辺での捕獲圧の極端な低下が原因していると考えられる。

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