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一般講演 P1-061

生物の安定同位体比から見た琵琶湖内湖の地理的特性と土地利用形態

*柴田淳也,由水千景,大川聡,西村洋子(京大・生態セ),眞壁明子(東工大・総合理工),永田俊,奥田昇(京大・生態セ)

内湖とは琵琶湖周縁に点在する小規模な付属湖で,生物の生息や繁殖に適したビオトープとして重要な生態系機能を担っている.また,内湖は集水域から負荷される栄養塩類を貯留する沈殿池としての機能も担うため、人為影響を最も受けやすい生態系のひとつである.内湖の生態系を健全に管理するうえで,周囲の人間活動の影響を簡易にモニタリングできる指標を開発する事は非常に有用である.従来的な湖沼生態系管理の現場では,主に栄養塩類濃度などの水質指標が用いられてきたが,我々は生態系診断の指標として生物の安定同位体比に着目した.水生生物の安定同位体比は,栄養塩類の起源と負荷量そして,その循環過程を反映することが知られ,栄養塩濃度測定などでは困難な水環境変化の原因やメカニズムの特定を可能としうる.また、長期的な環境動態の影響を累積的に保持する特徴があるので,頻繁な定期観測をせずとも簡便に生態系診断が可能である.本研究では,残存する23箇所の内湖において,移動性が低く各内湖の環境を反映しやすい生物を採集し,それらの窒素・炭素安定同位体比を測定した.さらに,集水域の土地利用形態に関するGISデータと生物の安定同位体比との関連性について検討した.解析の結果,各種栄養塩濃度と土地利用形態の間に明確な関連性は見出せなかったのに対して,生物の安定同位体比は栄養塩類負荷に影響する土地利用様式と有意な関連が示された.以上より,生態系診断の簡便な指標として,生物の安定同位体比を用いることの有用性が示唆された. [ 所属訂正:由水千景(JST) ]

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