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一般講演 P1-088

放棄水田の掻き起こしによる植生の保全について

*柳沢直(岐阜県立森林文化アカデミー)・岡部愛(愛媛大・理)

近年中山間地の耕作放棄水田を再び管理することによって生物多様性を保全する試みが各地で始まっている。水田雑草を含む生物相を保全するためには、再び稲作を始めるのが最善の方法であると考えられるが、放棄された事情もあり、現実には難しい場合も多い。そこで、本研究では簡便な方法として、春に放棄水田を掻き起こし、遷移の進行を止めることが、水田の生物相の保全にどの程度効果があるのかを検討した。

調査地は岐阜県関市の谷津田で、耕作放棄後7年が経過している。20枚程度の放棄田のうち、チゴザサが優占し、種多様性が低下している水田が数枚ある。調査は、このチゴザサの優占している部分で行った。水田の掻き起こしは2005年6月1日に1枚の水田の半分、12m2について、人力で行った。掻き起こした場所と水田の残りの場所に50cm×50cmの調査枠をそれぞれ4個づつ設置した(掻き起こし区と対照区)。2005年8月から11月、2006年5月から10月の間計14回、それぞれの枠で植生調査を行った。

掻き起こし区のみに出現した種は14種、対照区のみに出現した種は7種、どちらにも出現した種は5種であった。掻き起こし区に出現した種は一年生の水田雑草の割合が多かった。一方対照区では多年生の草本の割合が多く、湿地以外に生育する種も多くみられた。掻き起こしによって、スブタ・ヤナギスブタ・ホッスモの、三種の絶滅危惧植物が、掻き起こし区のうち高水位の部分に出現した。これらのことから、年1回春だけの掻き起こしでも、遷移の進行を止め、種多様性の低下を防ぐ効果があることがわかった。また、掻き起こし後の水位の管理は沈水生の水田雑草にとって重要であることも示唆された。しかし、掻き起こし後1年が経過すると、一年生の種でみられなくなったものがあったことから、保全のためには毎年の掻き起こし作業が必要であると考えられる

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