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一般講演 P1-093

小笠原固有種ムニンフトモモにおける遺伝的多様性および遺伝構造の解明

*兼子伸吾(広島大・院・国際),井鷺裕司(京大・院・農),中越信和(広島大・院・国際),延島冬生(東京都小笠原村)

ムニンフトモモMetrosideros boninensisは、小笠原諸島の父島および兄島に固有の亜高木である。現存する個体数は326個体と非常に少なく、絶滅危惧IB類に指定されている。地理的に分断化された4つの個体群を形成しており、現存個体の80%以上が、過去に原生林が破壊された地域において生育している。小さな個体群サイズや個体群の分断化、ボトルネックといった要因は、ムニンフトモモの遺伝的多様性および遺伝構造に影響していると考えられ、その影響を明らかにすることは、効果的な保全戦略を構築する上できわめて重要である。そこで本研究では、ムニンフトモモの遺伝的多様性および遺伝構造を明らかにするため、マイクロサテライトマーカーによる解析を行った。

ムニンフトモモの4つの個体群は、兄島に1個体群 (2個体)、父島に3個体群 (北部:109個体、中部49個体、南部:166個体) が確認されており、このうち、計105個体 (兄島:2個体、北部:32個体、中部:22個体、南部:49個体) について解析を行った。その結果、遺伝的多様性は、原生林内の中部個体群において高く、人為撹乱跡に成立した北部・南部個体群で低かった。また、個体群間の地理的距離が1〜5 km程度であるにもかかわらず、各個体群間にはっきりとした遺伝的分化および遺伝構造が認められた。これらの結果は、人為撹乱跡に更新した個体群はボトルネックの影響を強く受けていること、個体群間の遺伝子流動は限定的であることを示唆している。さらに、各地域個体群の消失が、大きな遺伝的多様性の消失につながることも示しており、各地域個体群の保全が、個体数の維持とともに重要な課題であることが明らかとなった。

日本生態学会