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一般講演 P1-152

トドマツの先端枝ヘの資源分配は被陰や切除で変化するかー炭素安定同位体を用 いたトレース実験ー

*長谷川成明,甲山隆司(北大・院・地球環境)

トドマツでは枝系の先端に近い枝ほど長く、基部に近い枝ほど短く伸びて、三角形に似た形の枝系をつくりだしている。このような形態の枝系ができる理由の一つとして、枝系側方の枝から枝系先端の枝に対する光合成産物の投資が考えられている。このような資源の流れは、伸長中の当年枝において見られるだろうか。また、先端枝が被食をうけたり、あるいは被陰された場合でも変化しないだろうか。本研究では当年枝を単位として、先端枝に操作を行った上で炭素安定同位体を用いたトレース実験を実施し、枝系内の光合成産物の移動が先端枝の状態によって変化するか明らかにした。

北海道大学苫小牧研究林に成育する樹高約8m のトドマツ3 個体を材料にした。トドマツでは枝系の先端は三叉分枝する。2005 年6 月中旬の当年枝の伸長期に、三叉分枝の側方に位置する当年枝に炭素安定同位体13C で標識した二酸化炭素を2 日間与えた。その際、1) 先端の当年枝の先端側半分を切除する、2) 先端の当年枝を寒冷紗で被陰する、3) 無処理の3 つの操作を行い、先端枝の状態を変化させた。その後に刈り取って炭素安定同位体比を測定することで、側方の当年枝で生産された光合成産物の行方をトレースした。

無処理の状態で、側方の当年枝から先端の当年枝ヘの光合成産物の移動は極めて微量であった。この傾向は、当年枝に切除を行った場合、被陰を行った場合も変化しなかった。側方の当年枝から、同じ一年枝由来の他の当年枝ヘの光合成産物の移動も、いずれの処理においてもほとんど見られなかった。

これらの結果は、伸長期においてトドマツの当年枝は、高い資源的な自律性をもっており、先端枝の状態が変動しても資源輸送は行われないことを示唆する。

日本生態学会