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一般講演 P1-172

スズランの地下茎によるクローン成長が個体群の空間的構造に与える影響

*荒木 希和子(北大・院・環境科学),島谷 健一郎(統計数理研究所),大原 雅(北大・院・環境科学)

クローナル植物スズランは種子繁殖とともに地下茎によるクローン成長を行う。クローン成長は資源分配を通して種子繁殖やラメットの成長に影響を及ぼすだけでなく、地下茎の伸長する長さや新ラメットの加入がラメット(ジェネット)の配置パターンを決定する要因となる。地下茎によるクローン成長では、同一ジェネット内や異なるジェネット間でクローン断片が複雑に入り組むため、近隣のラメットが連結しているとは限らない。また、地下茎の連結は不規則に切れるので、ラメット間で必ずしも繋がっていない。このように、クローナル植物個体群の空間構造は様々な形でクローン成長の影響を受けることが考えられる。そこでこの研究では、始めにマイクロサテライトマーカーでクローン識別した地上部の位置を把握し、成長と生存を追跡調査した。次にそのラメットを掘り取りラメット間の連結を調査することで、クローン成長がラメットならびにジェネットの配置パターンとその変化に与える影響を検証した。その結果、地上部の空間分布は近い距離での集中を示し、特に異なるジェネットのラメット間では近接する可能性が高かった。一方、地下茎の伸長は直線的で、同一ジェネットの離れたラメット間で連結していた。次に、地下茎の構造から各ラメットの由来(親ラメット)を特定したところ、クローンの広がりに方向性は認められなかった。さらに、娘ラメットは周囲の密度に関係なく出現し、地上部の成長は連結の程度に影響されなかった。従って、スズランで見られるラメットの集中分布はジェネットが拡大する過程での地下茎の重なり合いによって形成されていることが明らかになった。一方、断片内での資源のやりとりや高密度での資源競争などははっきり認められず、連結や分布パターンがラメットの動態に与える影響は小さいことが示唆された。

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